レグルス王国の物語

《眠れる森の男子 — Kanato》

奏人(かなと)は、レグルスと名も知らぬ女性とのあいだに生まれた少年だ。
幼いころから母の姿を知らぬまま、ただ“父に似た誇り高さ”と“どこか脆い影”を宿した瞳をしていた。


やがて中学二年の冬。
バスケ部に所属する奏人の前に、一人の少女が静かに現れる。
三年生で吹奏楽部を引退したばかりの少女──ゆめり。


記録係として練習を手伝ううち、
「ただ遠くから見ている」だけの関係は、やがて胸の奥で小さな火種になっていく。
付き合っているわけでも、言葉にしたわけでもない。
それでも二人は、互いを“特別な存在”だとどこかで悟っていた。


酉(とり)の市のにぎわう夜、
友人と歩くゆめりを人混みの中で見かけても、
奏人はただ遠くから視線をそらす。
ゆめりもまた彼に気づきながら、気づかないふりをする。
──その距離が、かえって互いを強く結びつけていた。


しかし、奏人には生まれたときから“呪い”が囁(ささや)かれていた。
魔女・ぱいんがかけた決して逃れられない言霊(ことだま)の呪い。
「16歳になった瞬間、スマホの針がお前の心を刺す」
もしそれを信じてしまえば、呪いは現実になる。
信じなければ、ただの悪い冗談に過ぎない。
──言霊とは、信念によって真偽が分かれる残酷な魔法だ。


※イメージカット:ぱいんの表情をクローズアップ


※イメージカット:ぱいんからゆっくりプルバック


※イメージカット:ぱいんをフルショットで撮影


かなのはサッカーとバレー部で活躍したのち、演劇部へと進み、髪も黒に戻した。


※イメージカット:艶(あで)やかな和衣(わごろも)に身を包んだかなの


ゆめりが卒業し、奏人はゆめりと同じ高校へ進み、二人は再会した。
運命の16歳の誕生日が近づく。


ゆめりは“夢の世界”のヒロインでもあり、
もし彼女が夢を選べば、奏人は永遠に16歳を迎えず、
二人は高校一年の冬のまま、
終わらない時間のなかで寄り添って生きられた。


現実を選べば、
奏人はやがてららという少女と結ばれる世界線へ進んでしまう。


しかしゆめりは、
夢も現実も選ばなかった。
どちらを選んでも誰かを失うからだ。


そして、運命の日。
奏人はついに16歳を迎えた──。


だが、何も起きなかった。


二人は顔を見合わせ、泣き笑いしながら言う。
「……なんだ、死なないじゃん」
すべては恐れていた“影”にすぎなかった。
こうして《眠れる森の男子》は静かに幕を閉じる。


✨《ゆめりピアノコンチェルト・第一楽章》へ続く物語

物語は、現代の下町へと舞い戻る。
少し大人になったゆめりが、夕暮れの商店街を歩いていると──
そこに、かつて想いを寄せた少年・奏人の姿があった。


お互いに気づきながら、声は出ない。
一歩踏み出す勇気だけが、どうしても足りない。


そんなある日、ゆめりは樋口一葉記念館を訪れる。
展示されていた『たけくらべ』の世界に、
自分と奏人の影を重ねてしまう。
その夜から、ゆめりは眠れなくなった。


『たけくらべ』のヒロインは美登利(みどり)。

“翠(みどり)”とも通じる名の響きは、どこかゆめりとも似ている。

パンダが好きなゆめりの柔らかな雰囲気に、美登利の面影をふと重ねた。


そして──深い眠りののち、
彼女は夢の音に導かれ、目を開ける。


そこは138年前の月影横丁。

あでやかな装いの女性たちが行き交い、
どこか遠い昔の気配だけが街角に残っていた。


ゆめりは、そこで奏人に似た少年を見つける。


「……かなと?」


ゆめりの問いに、少年はゆっくり首を振る。


「いいえ。私は信如(のぶゆき)です」


こうして、
夢と現実、過去と未来が交差する
《ゆめりピアノコンチェルト 第一楽章》が幕を開ける


👇続きはこちらから

《YUMERI PIANO CONCERTO(ゆめりピアノコンチェルト)── 江戸をめぐる三つの楽章》 – のりひとのブログ


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祝福が呪いに変わる時──現代版マレフィセントの物語 – のりひとのブログ

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