
眠れる森の男子-Re:Creation テーマソング
祝福されるはずの夜に、愛と嫉妬がひとつの命を揺らした。
現代に生きるマレフィセントたちの、静かな祝福と呪いの物語。
雪は、音を奪っていた。
風もなく、粉雪だけが足元で鳴る。
黒いコートの襟を立て、吐く息が儚く消える。
ぱりんは、足元の雪を踏みしめた。
かつてレグルスが夢を語った丘の先、
会場の灯りが滲むように光っていた。
ガラスのドームホール。
人々のスマホが光を放ち、
ストリーミング配信のコメントが流れている。
〈#RegulusChild #祝福祭〉がトレンド入りしていた。
中央のステージでは、
三賢者──あかり、らら、ゆめり──による“祝福の儀”が始まっていた。
けれど、ゆめりの姿だけが見当たらない。
レグルスの腕の中には小さな子ども。
白いブランケットに包まれ、その頬には、かすかに青い光が反射していた。
あかり、ららの二人が手をかざした瞬間、ステージの照明が落ちて、雪が降り積もる丘に祝福と共に光が舞っていく。
そして、その先にひとりの影。
雪の中を歩く音。
ざわめく会場。
ぱりんが黒いコートのまま歩み出てくる。
微笑んだその顔は、凍えるように冷たかった。
レグルスが止める間もなく、
彼女は子どもの前に立つ。
ぱりんは微笑んだまま、
子どもを覗き込み、柔らかく囁いた。
その瞬間、会場の照明が一斉に点滅。
スマホが一斉に落ち、音が途切れる。
青い雪が舞い上がった。
祝福は、呪いに変わる。
ぱりんは何も言わず、ただ背を向けて歩き去った。
その後ろ姿に、レグルスの声は届かなかった。
祭りの後。
観客が去ったホールに残るのは、
レグルスと光の王女、そして眠る子どもだけ。
レグルス「君が彼女を呼んだのか?」
「私は誰かにあなたとの関係を話したりなんかしないよ。
……でも、嫉妬はさせないでほしい。それ以外は、何も気にしない。」
その声に、
レグルスの中で、ある確信が生まれた。
この子は自分の子だ。
でも、彼女の子ではない。
母でない彼女が、
母になりたかった。
そして、母になれなかった嫉妬が、
ぱりんを呼び、呪いを生んだ。
ホールの非常灯だけが二人を照らす。
ガラス越しに降る雪が、
まるで世界の音を閉じ込めたようだった。
かなのは彼にそっと顔を寄せた。
触れた唇は、温度を失った雪のように淡い。
それは赦しでも愛でもなく、
失われた未来への、最後の祈りだった。
外。
ぱりんは雪の中を歩いていた。
スマホに通知が光る。
〈#祝福祭 事故 #呪い #青い雪〉
彼女はふっと笑った。
「ねぇレグルス。
愛って、いつも綺麗なままじゃいられないね。」
青い雪が空へ舞う。
そして、その奥で、
姿を見せなかったゆめりの瞳が、
何かを静かに見つめていた。
この物語は、“愛と祝福の境界”を描いた寓話です。
SNSや配信の中で祝福が拡散される時代、
「誰かの幸福」は、時に他者の心を凍らせる“呪い”にもなり得る。
ぱりんは、その痛みの象徴。
光の王女のかなのは“赦し”をもたらす存在。
レグルスは、創造と責任の狭間で揺れる王子。
祝福と呪いは、表裏一体。
どちらか一方だけを切り離すことはできない。
だからこそ、雪は青く舞い、闇の中に光が生まれる。
「The Blessing of Shadow」
──それは、闇に差す光の祈り。
#眠れる森の男子 #現代のマレフィセント #祝福と嫉妬
